Report 14

アユッティアーの仏教遺跡
クメール式仏塔(左)とビルマ式仏塔(右)

 仏教遺跡で名高いアユタヤ(タイ語では「アユッティアー」に近い発音)は,バンコクから北に 90kmほど, 車でも2時間かからない距離です。 日帰りでも十分往復できる手軽さもあって,バンコクを訪れる多くの人たちがアユッティアーに足を延ばします。

 1991年12月に,ユネスコの世界遺産に登録されたこの地の仏教遺跡は,流石に一見の価値はあります。 地元の人の話では, 市街及びその周辺には 200以上の遺跡があるとのこと。 確かに行ってみると「街中が遺跡だらけ」という感じです。

 タイの仏教遺跡は,アユッティアーのみならず,北部のスコータイやチェンマイをはじめ,タイのほぼ全土に点在しています。 その中でもアユッティアーは,1350年〜1767年までの 417年間,5つの王朝,35人の王がタイ史上最も華麗な歴史を築いたアユッティアー王朝が君臨した場所。  今でも残る仏塔の中には,トウモロコシをイメージしたクメール(現カンボジア)式や,日本のパゴダなどに代表される尖塔をもつビルマ(現ミャンマー)式などが見られ, 隣国ビルマとの度重なる戦争など,近隣諸国の影響が残っています。

 
破壊された建物の跡に残る煉瓦

 アユッティアー各地の仏教遺跡は,左の写真のようにビルマによって徹底的に破壊されたものが殆どで, 仏塔や仏像が綺麗な形で残っているものは殆どありません。 従って,歴史や仏教文化好きな大人の皆さんには興味あるものかもしれませんが, 子供達や単なる観光だけという向きには,いささか退屈かもしれません。 しかし,少しばかりタイや東南アジアの歴史をかじったり, あるいはこの地の自然や風土に応じた建築様式などに興味があれば,違った楽しみとなるでしょう。

 タイを中心とするこの付近は,台風や地震の影響が殆どありませんので,多くの仏教遺跡はシンプルな煉瓦積みです。 また,チャオプラヤー川の流域に位置するこの地は,川の堆積物である粘土層の上に繁栄した(現在のバンコクも同様)ことから,比較的弱い地盤です。   従って,現在のように杭を打つなどの基礎技術が確立していなかったこの時代の建造物は,地盤沈下の影響により, 仏塔の傾きや石壁のうねりなどが見られます。 中には倒壊を防ぐために,改修中の古い仏塔もあります。  「観光地」の遺跡の多くで徴収される 20〜30バーツの入場料は,世界遺産としての遺跡保存のためのものです。

日本人町跡地公園の記念碑文

 アユッティアー王朝は世界各地との交流も活発に行い,王朝が認めた外国人の居住とそれぞれの町づくりにより,アユッティアーには日本の平戸のように各国の人々が居住区を造りました。  日本人もこの地に日本人町を築き,徳川家康の時代に御朱印船貿易を交わした最盛期には数千人の日本人が住んでいたとのこと。  アユッティアー南部の郊外には日本人町の跡地が公園として整備され,この当時22代ソンタム王に重用された山田長政の像なども展示してあります。

 アユッティアーは,河口のタイ湾から 100kmも上流に位置するにもかかわらず,大いに繁栄しました。 これはチャオプラヤー川の水運を大いに活用したことによります。  日本と違い,山が少ないこの地域は川の傾斜がなだらかで,アユッティアー近郊までも数百トンクラスの船が航行できます。  今でも大型の輸送船が往来し,大量輸送手段としての船の存在はタイの経済の一端を支えています。 また,アユッティアーからバンコクまでのクルージング・ツアーも催されており, チャオプラヤーのなだらかな流れを楽しむひとときを過ごすことができます。

 タイの歴史,経済,地勢などをもっと勉強してこの地を訪問すると,違った発見や楽しみがあるでしょう。  興味や趣味の対象は,人それぞれですが,自分が知りたいことだけでも「予習」しておくことをお勧めします。

ワット・プラ・マハタートの
木の根に包まれた仏頭

 最後にこれらの仏教遺跡や寺院を訪問するに当たっての注意事項をいくつか。

 多くのガイドブックに載っているワット・プラ・マハタートの木の根に包まれた仏頭は有名ですが, この仏頭の前で写真を撮る時は必ず座り,仏頭より低い位置で写真に収まること。 日本語の掲示もありますが,ここには警備のおじさんがいて,立ったまま写真を撮っていると注意されます。

 また,寺院を訪問するに当たっては,なるべく肌を露出させない服装とすること。 ミニスカート,ノースリーブ,ショートパンツなどはもってのほか, 靴は踵のあるものを履いて下さい。 踵のないサンダルなどでは寺院の境内にも入れないところがあります。 そして, 寺院建物の中は靴を脱ぐことになっています。 これは我々日本人には抵抗ありませんよね。

 これらの注意事項は,どれも仏を尊重する仏教のこころの表れと理解しています。 「郷に入れば郷に従え」ではありませんが, ローカル・ルールはきちんと守り,日本人の代表として恥ずかしくない行動を取りたいものです。