Episode 9
米から見る日本 
 日本では新聞やテレビ,あるいは週刊誌などでアメリカの話題に事欠くことはない。 政治・経済は勿論,日本人が活躍しているメジャーリーグなど,途切れることなく報道されている。  「暇ネタ」の部類に至っては,日本では考えられないような出来事を面白可笑しく扱っている。 それでは,アメリカから見る日本の扱いはどのようなものなのだろうか?

 筆者がアメリカに滞在した 1997年8月〜1998年6月の間で,センセーショナルなトップニュースとして扱われた日本の話題は,覚えている限り 1997年11月の山一証券の廃業(破綻)だけである。  その後 12月4日から当時の小渕外務大臣〜「平成」の元号を発表した時の内閣官房長官,後に第84代内閣総理大臣を務め,2000年5月逝去〜が訪米したが,この話題は残念ながら彼地でのトップニュースにはならなかったのである。

 滞在中に接触したアメリカ人の中には,「日本は中国の一部だろう」とか「日本は大陸の一部の国」と思い込んでいる人も居た。 日本がアジアの国であることを理解しているのはまだ「善い方」で, 中には日本がどこにあるのか知らない人が居たことには驚いた。

 いくら日本が経済的に裕福な国になったとはいえ,アメリカから見る日本は「そんなもん」なのである。 アメリカの日常の関心は東や南を向いており,日々の話題はヨーロッパや中南米を扱ったものが中心であった。

 とはいえ,中には兵役に就いていた時に日本に滞在経験がある人も少なくなく,彼らの日本評は概して良かった。 アメリカ人に日本の地方都市を紹介する時は,東京を基準にするのもよいが,三沢,横須賀,岩国, 佐世保などからの方角や距離を説明すると,比較的よく理解してくれたものである。

タイの日本観 
 タイの人達が外国人のことを「ファラン」と呼んでいることは,滞在開始後間もなく気づいたことである。 そんな彼らに「自分もファランなのか?」と尋ねたら, 「オマエはファランとは違う,コン・イープン(日本人)だ。」と答えた。

 タイの歴史 が物語るとおり,タイは周辺の全ての国が西洋の植民地になったにも関わらず,頑なに独立を守った国である。 当時の英仏による揺さぶりは,明治維新の頃の日本同様かなりのものであったことが窺える。  それ故タイの人達は西洋人のことを「ファラン」と総称するのであり,それは日本人が青い眼をした人々を「ガイジン」と十把一絡げにするが如しである。

 タイの人達は,日本はアジアの兄貴分的な存在と見ている傾向が強い。 同じアジアでありながらタイと同様,一度も植民地になっていない〜厳密には第二次大戦後には「植民地」にこそならなかったが, 事実上アメリカに占領された〜数少ない「同僚」的な存在,それでいて科学技術や経済ではアジアのリーダーであり,憧れの国のひとつという見方である。  仕事でつきあいのあったタイの人は「タイが技術指導を受けるアジアの国は,日本とシンガポール以外には考えられない。」と断言していた。

 タイの日常では,新聞やテレビで殆ど毎日日本の話題が取り上げられている。 多くの人達が「ドラえもん」や「一休さん」,「クレヨンしんちゃん」などのアニメを知っており,それらを通して日本を見ている〜中には模範的ではないものもあるが〜部分も否めない。  デジタル家電や携帯電話などの新製品情報も,毎日のように韓国製品と競って紹介されている。 どこかの国の多くの人達が,映画や音楽を通じて他の国を覗いているのと酷似していると感じるのは,筆者だけではないと思うが・・・。

何を見ている日本 
 タイムラグはあるにせよ,アメリカとタイでの滞在を通じて感じたことは「日本は極度に欧米を向いている」ということである。

 テレビのコマーシャルや雑誌のモデルには「ガイジン」が登場し,新聞やニュースでは毎日のようにアメリカやヨーロッパの話題に事欠くことはなく,有名人が躓いただけでもニュースになるほどではなかろうか。  書店に行くと,欧米の歴史や文化,町並みなどを事細かに著した本は数え切れないほど並んでいる。 ミャンマー(ヤンゴン)旅行記 を纏めるに当たって,シュウェダゴン・パゴダの解説本を探したが, 適当な日本語版は結局探せなかった。

 今日の新聞からアジアやアフリカの話題を拾ってみよう。 欧米の記事と比較して,どんな話題がどの程度紹介されているだろうか? 要人の訃報や事故,クーデターなどの大事件でも起こらない限り, 話題にも上らない国々が沢山あることだろう。

 現在,世界には 190ほどの国家があるが,我々が一生知らないままの国もあるかもしれない。 日本が「世界的に知名度が高い国」だと思い込んでいるのは我々日本人だけで,欧米からの眼は一般的に我々が期待するほどではない。  所詮アジアの小国というのが,全地球規模の概評ということになろう。 極論かもしれないが,アメリカが見る日本の位置づけは,日本が見るタイの位置づけとよく似ているということである。

 今や世界でも指折りの先進国となった日本,この辺で見る方向を,まだ兄貴と慕ってくれているアジアの諸国にシフトしては如何だろうか。 〔2006年5月記〕