Report 38

遂に登場バンコクの地下鉄
遂にお目見えした地下鉄の
オフィシャルガイド
 2004年7月3日,待ちに待ったタイ最初の地下鉄が営業運転を開始しました。 バンコク北部の国鉄駅 Bang Sue からカタカナの「コ」の字を描くようなルートで, 中心部に近い国鉄の起点駅 Hua Lamphong までの約20km,この路線に18の駅を設置しての運行です。

 この地下鉄は,1970年代初頭にバンコクの交通渋滞緩和対策として計画され,1980年代の営業運転開始を目指していたものです。 しかしその後の通貨危機などにより着工が遅れ, 1996年11月19日に Hua Lamphong で定礎式を行い,着工にこぎ着けました。  工期7年あまり,総工費1,000億バーツ(約4,000億円=1996年からの為替変動を勘案)を超える大プロジェクトで, MRTA(Mass Rapid Transit Authrity of Thailand:タイ大量輸送公団)が建設を進めてきました。 このプロジェクトには日本も2,400億円あまりの資金援助や, 工事の施工などで深く関わっています。 工事期間中の1999年8月9日に,プーミポン国王から "Chaloem Ratchamongkhon(王権吉兆を祝す)" プロジェクト名を頂戴し,これがそのまま路線名になっています。

 この地下鉄は BMCL (Bangkok Metro Public Company Limited:バンコクメトロ株式会社)が運行し,車両は BTS と同じドイツのSーメンS社製,線路のゲージ(内法の幅)は 1,435mm の標準軌で, 集電(列車が電力を確保する方法)は第三軌条方式(線路の横に別に設置された電気用のレールから電力を確保する)と,これも BTS と同じです。 2003年末にほぼ完成,2004年の年明けから試運転を実施, 5〜6月に一般試乗会を行って営業運転に備えていました。

 本サイトでは,線路のゲージについてこちらで,また BTS についてはこちらで,少しばかり詳しく解説しています。

 では,地下鉄に乗るべく駅に行きましょう。 BTS の場合は道路の上などに駅があるので容易に判りますが,地下鉄の場合はどこにあるか判りませんよねぇ。 駅の周辺には "M" のマークの案内標識があるので,これに従って進むと地下鉄の駅に辿り着けます。  しかし,営業運転を始めて間もない現状では,まだ案内標識が不十分なところもあるようです。 徐々に整備されていくことでしょう。

"M"のマークの案内標識(左)と水害を考慮して嵩上げしてある地下鉄駅の入口(右)


(左上)結構急な傾斜で,スピードがちょっと速めのエスカレータ
(左下)地下鉄駅構内は案内が充実している
(右)切符の自動販売機は一足遅れて8月13日から「営業運転」開始

 さて駅に降りてみます。 地上の入口は,一旦数段の階段を昇って下りエスカレータに辿り着くもので,これは水害による地下鉄への浸水を考慮しているのでしょう。 バンコクならではの設計ですね。  このエスカレータ,ちょっと「スピード」が早い感じがします。 お年寄りや体が不自由な方,またエスカレータの利用経験が少ない〜実際,タイの田舎の人にはこういう方もいます〜にはちょっとツラいのでは…。  駅構内の案内は我々外国人にも判りやすくキップの自動販売機までは容易に辿り着けますが,8月12日までは「工事中」でした。 この自動販売機の使用法は次のページに解説しています。

これ(左の黒い「硬貨」)が地下鉄のキップ代わり
ニューヨーク地下鉄のトークンの如し
右はタイの10バーツ硬貨


タイ公共交通機関史上初の「子供運賃」登場
身長90〜120cmは「子供」と見なし運賃は半額
併せて65歳以上の "Elder" 運賃もお目見え

 自動販売機はまだ使えないので窓口でキップを買うと,ニューヨーク地下鉄のトークンの如き黒いプラスティック製の「硬貨」を渡されました。 ちなみに8月12日までは「バンコク地下鉄開業記念セール」よろしく, 乗車区間に関わりなく一律10バーツ(約30円)。 この「セール」,自動販売機がまだ使えないからってのも理由の一つになりそうですが…(謎)。 その後,13日から開業1年目までは「定価」の15%引きの運賃=最低12バーツ〜最高31バーツ=で営業することになっています。  なおタイには定期券は存在しませんが,定期券代わりにはテレフォンカードのようなプリペイドカードが窓口で売られています。

 さて今回の地下鉄には,(編集部が知る限り)タイ史上初のシステムが導入されていることが発覚しました。 これまでタイでは,一般的に「子供運賃」は存在せず,一律「身長○cm」〜実質的にはキップを売る人の判断〜で料金を課す・課さないが決められていました。  ところが地下鉄では「子供運賃」と,併せて「高齢者運賃」が導入されることがオフィシャルガイドの記載で明らかになったのです。 写真の英文をご覧下さい。

  • 身長90〜120cmは子供運賃で大人の半額
  • 66歳以上の高齢者は大人の半額
  • 身長90cm以下の子供は無料
とのこと。 とはいえ,制度は細かく規定されていても実運用は「」のこの国, さて実際はどうなる〜その場でどうやって無料/子供運賃/高齢者運賃を決める?〜でしょうかね。 ちなみに「この国」では,このように紙の上で明確に規定されていても,実質は担当者次第ということが常識に近いので, あまりシビアに考えないで下さいね。

ホームに入る時は黒い「硬貨」(またはプリペイドカード)を改札機の丸い部分に当てる
黒い「硬貨」(またはプリペイドカード)には IC チップが組み込まれている模様

 キップ代わりの黒い「硬貨」を入手したら,改札で丸い部分にかざして下の階のプラットフォームに行きましょう。 プラットフォームの両側に線路が走っている駅では,どの階段やエスカレータで降りても問題ありませんが, 駅によっては上り線と下り線が「2階建て」になっているため,行き先によって降りていく階段やエスカレータが異なる場合があるので注意が必要です。 判らない時は迷わず駅の係員に尋ねて下さい。 日本語はムリでしょうけど,英語はだいたい通じます。


安全にも配慮したドア付のプラットフォーム(左)エレベータのように列車のドアと連動(右)

 プラットフォームは近代的です。 安全に配慮して,線路側には列車と連動して開く扉が設置されており,BTS と同様,警備をするガードマンがいます。 線路は真っ暗なので,どんな状況かガラス越しに覗いていたら, 「アンタラーイ・カップ(アブナイですよ)」と注意されました。

 列車が静かに入ってきます。 プラットフォームは半ば「密閉」されているので音も静かです。 列車は恐らく自動制御なのでしょう,概ね「自動ドア」の前に停まります。 最寄りのドアから乗り込むと,まだ「10バーツセール期間中」だからか, 座るところがないほど混み合っています。


地下鉄の車内(左)と BTSの車内(右)構造は概ね同じ,吊革は BTS の方が多い

 車両は BTS と殆ど同じですが,まだ車内広告が無いのでシンプルな印象を受けます。 また,吊革などが BTS に較べると少ないため,立っているとちょっと握るところがなくて戸惑うのですが, これって初期の利用者数を「予想」してるから?

 BTS では列車乗務員が肉声でアナウンスをしてましたが,地下鉄では予め録音されたアナウンスが自動で流れています。 タイ語の後に英語というのは同じですが,これで一部の BTS 利用マニアの間の楽しみだった, 乗務員アナウンスの言葉詰まり=「次は,えーっと,えーっと……」という感じ=や,間違いを耳にするってのもできなくなりました(笑)。

 駅が近づくと再び車内アナウンスが流れますが,各駅で「ホームと列車の隙間に気をつけて下さい」という注意も流れます。 駅に着くと上りのエスカレータを目指して出口まで。 ただ,出る(地上に上がる)方向は改札を抜ける前に確認しておかないと, BTS 同様,一旦改札を出ると「反対側」の出口には改札を通らないと行けない構造になっているところがあります。(これは,改善されてない!)

 駅のコンコースには,日本が資金援助に対する感謝状が掲げてありました。 あなたの税金の一部もここに使われたのですよ。

 以上,お目見え直後のバンコクの地下鉄をリポートしました。 BTS やバス,タクシーとの「合わせ技」で,あなたのバンコクでの行動範囲拡大にきっと貢献することでしょう。(2004年8月記,2005年1月追記)


改札出口は黒い「硬貨」を入れるだけ


目的地に無事到着(上)

あなたの税金が貢献しましたよ(右)