Episode 6
タイの国旗 
 国旗。 それぞれの国の旗には意味があり,その国を表すものである。 例えばアメリカ合衆国の旗では左上の☆が現在の州の数を, 右側の13段の白は,1776年の独立時の13州を表している。

 タイの国旗は,本サイトのトップページ にはためいているとおり,外から,白,そしての水平ラインのデザイン。  このラインの色には意味がある。

 まず真ん中の青色は王室を象徴したもの。 この国旗が制定された 1917年当時の国王,ラーマ6世の誕生日(金曜日)の色を表したものとも言われている。  一部ではこの青色が,国土を潤すチャオプラヤ川を象徴するとの説もあるが, タイの国土全般を考慮すると,チャオプラヤ川は国の北西部を北から南に流れているので,ホント〜かなぁ? 青色が公式にチャオプラヤ川を意味しているのかどうかは,サボって調べてない。

 青色の上下の白い色は,タイの主な宗教である仏教を表現したもの。 確かにタイ=仏教と思いがちだが,実はタイでは宗教の自由な信仰が認められている。 バンコク市内でもキリスト教の教会や, イスラム教のモスクヒンズー教の寺院 などを至る所で見ることができる。 この国旗に公式に表現している宗教と, 現実の実態とにギャップがあることが,実は社会問題化しているのだが,これは別項で記すことにしよう。

 最後に外側の赤色は人間の血潮を象徴したもので,国民を表すもの。 タイ国旗の歴史を紹介するページ(英語) によると,この国旗が制定される前は赤地に白象のデザインだったようだが,この赤も国民を表していたのかもしれない。

 国旗一つ取り上げても,その国の特徴がよく表れているもの。 自分の国の国旗の意味も,ちゃんと知っておきたいものだ。

国王への忠誠 
 タイの人達の国や国王への忠誠,それは並大抵のものではない。 1997-98年にアメリカに滞在した時に,アメリカの人達の愛国心に驚き,それを羨ましくも思ったものだが, タイの人達のそれはまた違った意味で重厚なものに感じた。

 このサイトの開設初期の頃,最初のタイレポート「タイってどんな国?」に書いたとおり,タイのテレビ・ラジオやBTSの駅などでは,毎朝8時と夕方6時に一斉に国歌を流し, 公的機関や学校などでは,朝それに合わせて国旗を掲揚し,夕方には降ろす。 国旗の掲揚・降納の間,機関の職員や学校の生徒・学生,駅に居る人々は不動の姿勢で国旗に向かって敬意を表している。

 また,「タイの映画事情」で紹介したとおり,映画や演劇の開演前には国王讃歌が流れるので,観客は起立して敬意を表さねばならない。

 タイ国民の国王への忠誠と国王の国民への想いは,完璧とも言えるほどに均衡が取れている。 それが故,タイの人達のこのような行動には全く違和感が無い。 タイ滞在中の筆者には,生活の中の自然な素振りに映った。  我々日本人も,タイの人達に見習うべきところが大いにあるのではないだろうか?

宗教間の対立 
 タイの国旗にも表現されている仏教。 タイでは葬儀の時は勿論だが,日本では「神事」である会社の創立記念日などの節目の式典や,家を建てる前の地鎮祭などでも, 寺の僧侶がやってきてお経を唱える。

 テレビや新聞では高僧の説話が挙って取り上げられ,人々は地元や各地の寺に詣る。 一般的にタイでは,高僧は国王に匹敵するほどに尊敬されている。  本家のページの「穴場的三寺院」のとおり,タイ語で「ワット」とはお寺のこと。 カンボディアのアンコールワット(タイ語では「ナコン・ワット」と言う)も, 確かに寺である。

 タイの人に尋ねたことがある,国王と高僧はどちらが偉いのか? あるタイの人は「政治の世界では国王が偉いのだろうけど,教えの世界では高僧が偉い」と答えてくれた。

 上述のとおりタイでは信仰の自由が認められているが,実際は仏教が最も「強い」。 従って,建前はどの宗教も平等な扱いを受けているハズなのだが,仏教が優遇されている印象は免れない。 タイの暦で, マカブーチャ(万仏祭:2月)やカオパンサー(入安居:7月または8月)などの仏教行事が祝日になっていることからも,それが見え隠れしている。

 しかし,タイの現実は厳しい。 イスラム教徒が多いマレーシア国境の南部3県(ナラティワート,ヤラー,パッタニー)では,毎日のように軍や警察施設が襲撃されたり, 時には寺の僧侶や学校の教諭が襲われたりしている。 この背景には,タイ政府のこの地域に対する措置の不公平感から生じる不満や,仏教勢力が強いタイからの独立要求が根強いと言われている。

 同じ信仰の自由が認められている我々日本人にはピンと来ないが,これまでの歴史が物語っていることからも,宗教間の対立とは我々の想像を超える根深さがあるのだろう。 〔2006年1月記〕